物理学・宇宙物理学専攻(物理第一分野)・教授 佐々真一
学部生のときに何をしていたのだろうか。東京にいた頃、話題がでたときに思い出そうとすることはあっても、そういう機会がたびたびあるわけではなく、もうすっかり忘れていた。研究、講義、会議、書類作成など日々の暮らしに追われ、過去を振り返る余裕がなかった。
2013年10月より、京都大学理学部で講義をすることになり、理学部学生の皆さんと話をする機会が増えた。おそらくそのせいだろうか、北部構内の銀杏並木を歩くたびに、30年前のことが頭の中で自動再生されるようになった。特別なエピソードではない。ゼミ室で話をしたり、図書室で本を読んだり、生協で食事したり、そういう何気ない風景をたくさん思い出した。
それから3年たった。現在、色々なことについて、急速に能力が衰えている。何をするにもスピードは大幅に落ちた。特に、研究するときに「先日の議論」を思い出せないのは辛い。何とかそれらに適応すべく試行錯誤中である。
その一方、新しい問題に向かおうとするときのワクワク感は10年前よりも大きい気がする。むしろ、今までの研究人生で一番「はじけている」かもしれない。これはひょっとしたら30年前の自分が乗り移ったのかもしれない。実際、学部生が強く興味をもちそうな研究テーマに新たに挑戦している。まるで、あの頃の僕の素朴な問いかけに答えようとするかのようだ。
1983年10月に北部構内を歩いている僕が今の僕を見たら驚くだろうな。その様子を想像して微笑んでしまった。